人生を変えた松下政経塾時代

私は大学時代に松下政経塾を受けたのですが、そう思ったのは、やはり人物研究会の活動が大きいです。ゼロから世界的企業をつくりあげた「松下幸之助」という人物に会えて、さらに週に一度話を聞ける機会なんて、そうそうあるものではありません。ですから、ぜひ会って薫陶をいただきたい、それが一番大きな理由ですね。

実際に政経塾の面接試験で松下先生とお目にかかったとき、「君は運はあるか?」と問われました。私は思わず「私は運があります!」と答えましたが、実はこのとき「運がある」と答えた人は合格、「運がない」と答えた人は不合格だったと後から聞きました。先生はいつも「自ら運があると思わなければいけない。運はあると思えばある」とおっしゃっていました。

松下先生はあるとき、こんな経験をなさったそうです。昔大阪で、自転車に乗って商品を運んでいたとき自動車にぶつかってしまったと。その時、積んでいた商品は全て壊れてしまったけれど自分は命には別状はなかった。先生は、自分は運がいいと思ったそうです。車にぶつかって商品が壊れてしまったとネガティブに取るか、命は助かったとポジティブに取るか、同じ出来事をどう捉えるかでその後が変わる。「運はあると思えばある」という先生の言葉は、こういうことなのです。

私の初めての選挙は、28歳のときの都議会議員選挙でした。落選でした。周りの人からは「松原さん、もう少しだったのに残念だったね。運がなかったね」と言われました。私も正直、皆さんに応援していただいたのにという気持ちを抱えながら松下先生のところに行き、「応援してもらったのに残念です。皆さんに申し訳ない」と先生に報告しました。すると、先生は「お前は運があるな」と言うのです。驚きました。「立候補して半年で、1700票差の次点。運があるじゃないか。運があるんだから頑張れ」。こう言われたのです。目からうろこが落ちるとはまさにこのことでした。

私はそれ以来、選挙に負けても支えてくださった方々に「努力したけれどダメだった、運がなかった」とは言わず、「私は運がある。けれど努力が足りなかった。あと一歩努力が足りなかったのでさらに頑張ります」と言うようになりました。自分ではどうしようもない力に負けてしまっているのではなく、あとは自分さえ頑張れば、努力すれば道は開かれる、周りの方々にもそう信じていただきたいし、私自身もそう信じて歩みを進めていきたいと思うからです。

私はあるとき、松下先生に「どうしたら運を自分のほうにひきつけることができるのですか?」と尋ねたことがあります。すると先生はこうおっしゃいました、「それは二つある。一つは謙虚であること、素直であること。謙虚素直であれば運は逃げていかない。もう一つは一期一会を大切にすること。人との出会いを大切にすれば運はずっとやってくるよ」と。地球には何十億もの人がいて、その歴史も何十億年と続いている。そのなかで会い難い人に会っているのだから、そのことに感動しながら感謝しながら人に会うことが運につながるというのです。これは、今も肝に銘じている大切な言葉です。

政経塾に入って5年、初めての選挙に出馬するまでの間に、こうしたことも含め、実に様々なことを勉強させていただきました。政治家としての基礎をこの松下政経塾で学ばせていただいたと言っても過言ではありません。