常識を切る１ 〜日本の土地は安すぎる〜
未来第17号に掲載
今日、我々は､過去の実例にとらわれすぎて、自由な発想を失っています。そしてわれわれが常識だと思っていることが視点を変えてみると，非常識となっている場合があります。 例えば、土地の問題がその一つの事例です。世の学者は、その多くが、日本の土地はまだまだ欧米に比較して、値段が高いと指摘しています。 先日、あるライオンズクラブでの集いのとき､その日の卓話が終わって懇親会となりました。 その席には弁護士の先生が一人と、あと数人は城南地域で製造業経営をしている中小企業経営者が集まっていました。そのとき、私は従来から唱えている土地の価格についての持論を展開しました。 つまり､前川リポートで、サラリーマンの年収の5倍に一戸建ての価格をするべきだという考え方は正しいとしましょう。 しかし､その時に､サラリーマンの年収の5倍まで一戸建ての価格を下落させてしまっては日本の経済はおかしくなる。 むしろ､サラリーマンの年収を一戸建ての5分の１まで上げげさせるべきです。と主張しました。 その理由は、日本はデフレに弱い国だからです。 もちろん，デフレという現象を様々な視点から捉えることができます。 しかし､私が最も強調しておきたい視点は、デフレは、モノの価格がどんどんと下がる現象であり、そうなると､土地を買って工場をつくるとか、新しい機会を買うとか、何かおカネを投資して、ものごとをやるよりも､何もしないで､じ――とおカネはおカネのままにしておいた方がメリットがある状態だという事です。 つまり､おカネをおカネのまま温存しておく事が、最もリスクを回避することになります。しかも何もしないでカネをカネのままにしておくほうが，相対的にモノに対しての価値を高める事になれば､ほとんどの人がおカネをそのまま、じ――と持つことになります。 要するに、モノとカネで、モノの価値が下落し、カネの価値が上がるわけですから、カネを持っている人は、カネのまま持っている事が一番リスクも少ないし、メリットも大きいという事になります。 逆にインフレということは､大戦間時代のドイツを例にとれば分かるように、カネの価値がどんどんと下がり、挙げ句の果てに、玉子一個買うのにバケツ一杯分のマルク紙幣が必要となったということが証明するような状態です。。 つまり､カネをカネのままで持っていたならば､モノに対してのその価値はどんどんと下落してしまうわけだから､何でもいいからモノに換えておこうということになります。 極端に言えば、どこかに土地があって､その土地の上に工場を立てて新製品をつくろうということで、設備投資の一環として土地を買うのではなく、とりあえず今はその土地を使う具体的な目的用途はないけれど、インフレがすすむ現状の中では、カネのままより土地にしておいた方がメリットがあるということで、モノにカネを換えることも出てくるわけです。 そして､カネをカネのままにしておくことよりも､モノにしておいた方がリスクが少なく、メリットが大きいのがインフレの特長です。繰り返しますが、デフレになると人間はカネをつかって経済的行為をするよりも、できるだけカネをカネのままにしておいて設備投資や行動をひかえた方がリスクはないしメリットがあるということになりますし，逆にインフレのときはカネをそのままの状態でもっていることが一番リスキーでデメリットがあるわけだから，何がなんでも多少リスクがあっても設備投資を経済的な行動したりしようということになります。 つまり､デフレは人間の経済的行為をインフレに比較して自制し抑制する作用を持つのです。 もっと言えば､インフレの状態においてはカネをモノにしておいた方がリスクは少ないしメリットも大きいわけですから，経済的行動のリスク部分にしても、このリスクはメリットの大きい中に吸収されてしまいます。 逆にデフレになるとカネをモノにすること自体がリスクが大きくメリットが少なくなります。経済的行動のリスクを背負って更にリスクとデメリットの大きいことをやるのかということになります。 そしてこうしたことを日本社会にあてはめてどうかというと，日本社会はインフレには強いがデフレには弱い社会だと考えます。 それは､例えばアメリカなどと比べた時に、アメリカは今言ったようなデフレになって､人間がカネをモノに換えないでカネのままにしておいても､世界有数の資源国であり､天然資源のレアーメタルや石油や鉱石もあるし､豊かな農地もあってどんどんと輸出できる物資に恵まれています。 したがってデフレになっても､人間の経済的活動、人間そのものの活動によって財が蓄積されます。人間資源が不活性化しても､自然の中にある天然資源や農業資源で､それなりに経済は営まれる事になります。 これに対して日本は、人間資源のみの国といってもいい国で、人間の経済活動が低下すれば，そのことがそのまま経済力の低下に繋がります。つまり人間が経済的行為を若干のリスクを背負ってやるに際して、デフレは決定的なマイナス要因となります。 つまり人間資源は働かなくなると，他の自然の天然資源や農産物資源の少ない日本にとって決定的なダメージになるのです。 したがってデフレは日本においては絶対にあってはならないと考えます。 だから、前川リポートのサラリーマンの年収の５倍に戸建の価格を決定することはいいけれどもそれは､戸建の価格を下げるのではなく、サラリーマンの年収を戸建ての１／５まで上げるべきだと私は主張したのです。 そのとき､そこに居た中小企業の経営者の皆様は､全員、それぞれの土地を担保にして､企業運営をされているというお話であり、土地の価格下落は､新規設備投資にしても、運転資金の借り入れの仕方からしても､大きなダメージを受けているという趣旨のことをおっしゃっていました。つまり，わたしの考えに共感していただけたのです。 ただ､一人､そこに居た弁護士の先生が､国際的に見てもまだまだ日本の土地は高すぎるから､下げるべきだと主張したのです。 そこで私は、国際的に見てというのは違う発想で考えるべきではないかと反論致しました。 つまり､国際的土地の価格は､本来何によって決まるのが適正かということです。 国際的に欧米社会では土地の価格を考える時には､その土地の価格は利回りによって決定されるのが常識です。例えば１００万円の土地が，年間２０万円の利益を出すならば，２００万円の利益を上げる土地は１０００万円の価値を持つことになります。 この発想から極論すれば，アメリカの２５分の１の国土の日本が、アメリカの３分の２のＧＤＰを持っているとすれば、利まわりというのは､その土地の持つ生産性のことであるからアメリカの土地の５０／３倍の値段であるのが妥当ではないかということになります。 更に日本の土地における所有権がアメリカの土地の所有権よりも固有の権利としてはるかに強い物であることを考えるときに､日本の土地はアメリカの土地の２５倍ぐらいの価格でもいいこということの方が､よっぽど国際的な常識として妥当性のある議論ではないかと主張したのです。 同じ１�屬△燭蠅任涼傭覆鯣羈咾靴動造い�高いかで判断するのは筋違いであり，欧米の土地に比較して安いか高いかをいうならば，欧米の常識からいって日本の土地はアメリカの２５倍の値段でもおかしくないと私は主張しました。 このことについて，その弁護士の先生も理論上納得したようでした。 そして､私は､この小論を書くにあたって，これと関連する次のことを銘記したいのです。 それは､日本社会における経済的なリーダーシップをとる層は、あくまでも人口の一握りかもしれないが､中小企業経営者であって､いわゆるサラリーマンなどの被雇用者は､経済的には､先陣を切って経済の活性化にリスクを背負って参加することはなく、その活性化に後方より実態を形成していくグループであり，階層であるということなのです。 事実、一人のサラリーマン、給与所得者はその経済的行為を､自分の所有するカネを消費するということでしかあらわすことができないのです。 したがって､その所得と貯蓄を超えて経済的行動をすることはないし､実際は貯蓄の全てを使うこともほとんど無いのです。 例外的に自分の人生の時間を担保にしたローンを組むことがあっても､それは経済行為としてはクリエイテブなものではありません。 また､その行為が次々に経済的波及効果をもって社会伝播していくまでもありません。 これに対して中小企業経営者の行為は全て異なります。はるかに高いリスクを背負いながら、ある意味では｢生命｣をかけて利潤を追求し、勝負をかけていくのです。 そしてそこからあたらしい製品が出来ればそこにあたらしい需要と供給と雇用が生まれ､あたらしい市場と文化が生まれてきます。 したがって､とくに日本のような人間しか資源のない国において経済的なイノベーターであります。一握りの中小企業者こそ経済を活性化する一粒の種子のようなものといえるのです。 しかるにこの層が土地下落のあおりを受けて担保余力を失い意気消沈していることは、今日の不況を長びかせる大きなマイナス要素となっています。 私は､そうしたこと考えると日本のカネを貸す側である金融機関に､土地以外に担保を判断できるノウハウが蓄積されることが大変に有効だと思うのですが､実際には、土地以外の部分でその経営者の健康や体力，アイデアや商品の魅力や商売の相手先によって担保能力を判断するというノウハウは全く無いといっていいかもしれません。 私はそれ自体金融機関の半世紀におよぶ怠慢だと考えますが今、緊急に景気対策として必要なことは、中小企業に担保余力をつけることと考えます。 したがって，くどいようですが世界的な常識から見ても土地の価格を上げるべきだと主張したいのです。当然のことながら，サラリーマンの所得を上げて，戸建ての１／５にするような努力をしていくことも当然必要ですが。 およそ、こんなことをそのときの会合では議論したと記憶しています。 地球時代にふさわしい民主主義がつくられることを願っている。
